AIで楽曲を楽器やボーカルに分離する

会話の種で 誕生日が近いと言ったら、棚の上に放ってあった空の薬莢を貰った。



数秒 手の平の上にある空薬莢を見つめてから、隣にいる男を見た。
素知らぬ顔でソファにふんぞり返ってコーヒーなんか飲んでる。

テーブルを挟んで向かいではニュースキャスターが一生懸命原稿を読み上げてるけど、
あたしたちは新聞の方が好きなので、彼らの言葉に耳を傾けるなんて滅多にしない。
――この部屋では政治の話がBGMになる。
男はテレビ画面の政治家の顔ばかり見ていて、その真摯な視線がなんだか怖い。

けど、底知れない悪事への不安感よりも、目下 あたしの悩みはこの手の中の鉄にある。



あたしは別にガンマニアでもないので、こんなの貰ってもどうしようもない。
そもそもこれはマニアックな型ってわけでもなく、普段彼が愛用している弾丸の残骸の一つでしかない。
常日頃から薄々感じてはいたけれど、この男はあたしのことを家政婦かなんかと勘違いしているんじゃなかろうか。
トメさん これ捨てておいて
なんて ご隠居と老家政婦のやりとりが脳裏に浮かぶ。



「別に物が欲しくて言ったわけじゃないけど…、これをどうすれば?」
「適当にどこか置いとけ。いらねぇなら捨てろ」



実際 要らないので捨てたいのは山々だけれど、
悔しいことにあたしには呪いがかかっているので それをすることは叶わない。
彼が与えたものをあたしの意思で手放すことはできない。

なんとも禍々しい呪い。



呪いをかけたのは目の前の悪魔なのに、平気で「捨てろ」と彼は言う。
そこがまた腹立たしい。
腹立たしいけど呪いは解けてはくれないので仕方なくあたしは手の平で薬莢を包む。



「あたし別に蛭魔くんのゴミ箱ってわけじゃないんですけど」
「テメェが黙ってゴミだけ受け取る生き物だったら苦労は無ぇよ」
「だって 空薬莢だけもらったってどうすればいいのよ」
「どうしようもねぇなら どうもしなきゃいいだろ」
「また哲学家みたいなことを…」
「哲学家なんざでなくとも、ガキでも分かるぜ」



理屈は解っても納得出来ない。

だけど、
納得は出来なくても 理屈は解っているので頷くことにした。


「・・・今までの誕生日プレゼントの中でこれが一番わけわかんないわ」
「他にも経験がある言い方だな」
「セナから貰った洗濯バサミとかも衝撃的だったんだけどね。あれは一応使ってるし」
「あの糞チビと一緒にすんな」



忌々しげに彼は言う。
まぁ セナには可哀想だけど、彼が怒るのはしょうがないかとも思う。ごめんね。

「他にも くじ引き券とか、ドライバーとか、折り紙とか貰ったわね」
「しょうもねぇもんばっか貰ってんな」
「でもセナはあたしのために選んでくれたのよ」
「わけわかんねぇ思考回路でな」
「使ってるからいいの!」



…確かに 未だにセナの心理はわかんないけど。
照れたように渡す あの顔が可愛かったのよ。それで十分。

それで十分。






と、そこまで思って ふと気付く。






あの 蛭魔くんが、

何の意味もなく行動をするだろうか。
もっと言えば、何の意味もなく 使えないものをとっておくだろうか。

あの 蛭魔くんが。







「…ね、」
「あ?」
「これ何?」
「薬莢」
「そうじゃなくて」
「空薬莢」
「そうじゃなくって!」



ちょっと憤って詰め寄ると、彼は無言であたしを見つめ返した。
じ、とあたしの目を見る。
値踏みされてるのかな、と思って
なるべく高く見えるように 瞬きもしないで彼の瞳孔を覗いた。







見合うこと数十秒。
彼の唇が 僅かに開いた。










































「言ワネ」
「っ、ひっどぉ!」





あれだけ間を持たせておいて、この落ちはないわ!


「あたしの人生の数十秒を返してよ!」
「出来るもんならてめぇが用意してみろ。倍に増やして返してやるから」
「十代の一瞬は大人の一年と同じくらいの価値があるんだからね!」
「なんかの受け売りだろ。もっと主体性をもて。若者」


嗚呼、なんて恨めしい男なの!


「教えてよ」
「イヤデス」
「いいじゃない。知りたい」
「ムリデス」
「教えて!」
「うるせぇ 黙れ 諦めろ」


最後はうざったそうに言い切って、一睨みされてしまった。
だけど そんなのちっとも怖くないので尚も言い募ろうとしたら、チッと舌打ちしながら彼はこちらを見た。


「そいつはさっきまでは確かに俺にとって意味があった」
「え?」
「けど もうてめぇにやった」



「それはもう既に、お前にとって 意味があるもんになったんだ」




「だから知らなくて十分だ」 と彼は言う。

・・・なんだか、
よく考えてみるとやっぱり都合良くかわされてるな って 思う。

思うんだけど、


蛭魔くんにとっての この空薬莢の重みのことより、
その なんか重みのある空薬莢を、軽く手渡してもらったことの方が、

すごくすごく重要なことなんじゃないかと思えてきて、


手の中の鉄屑を握り締める。
そういえば、初めてこの部屋に来たときから あの棚の上にこれがあったことを思い出す。





・・・すごく すごく 重要なことなんじゃないか と





思うと、急にへんてこなロマンチック気分になってきて

さっきから流れてたBGMも、そんな気分に拍車をかけて、
汚職事件のニュースが最高のクラシックみたいに聞こえてきた。


あたま わるくなるのよね  ロマンチックって。






「・・・誕生日前だけど、なんか あたしの終わりが見えそう」
「どうせくだらねぇ人生だ。あの糞熊人形と砂糖の塊に埋もれる前にとっとと閉じとけ」






失礼なことを言いながら、彼はコーヒーカップに口をつける。
それを見ただけで、あたしの口の中に苦い味が広がった。

彼が与える 人生の苦味だわ。

彼があたしに投げてよこすのは、人生の苦味や、使えない薬莢や、頭の悪くなるロマンスだけ。
あたしはもっと 甘い人生が好きなのに。


















でも

嫌いじゃないよ ロマンチック。
歪んだ小さな鉄片すら この世で無二の金属に変える、その力。



手の中のロマンチックな鉄屑をぎゅっと握り締めた。



彼にとって、これがもう意味の無いものでも、
それをあたしにくれたことの真意は消えない。

















弾けた彼の思念の残骸。

あたしの脳細胞と引き換えにしても、
そうです あたし これが欲しかったんです。


サンクス,  ロマンチック・アイアン。


















***
長っ。こんなになるはずじゃなかったのに なぁ・・・。

あの空薬莢は、新生デビルバッツが初勝利したときに蛭魔さんがバーッと撃った弾丸の一つです。記念です。
蛭魔さんは普段クールだけど、ことアメフトに関しては純粋な(?)スポーツマンとしての感情がある気がします。
まもりちゃんにそれをあげたのは、なんとなくの気まぐれだったんですが、
その深層には、まもりちゃんがそれをあげてもいいと思える人間だったという無意識の認識があったと思います。

(2005/07/17)