火の無いところに煙は立たない。
「えー それでは本日の議題です」
「却下」
彼は愛機の手入れに忙しそうで、摘み上げた銃弾から目を逸らさずに即答した。
彼があたしの方を見もしないのも、あたしの言葉を聞かないのも、
あたしは慣れっこだったので、気にせず話を続けることにした。
「先程、蛭魔くんの家のキッチンで、あたしのシュークリームたちが嘆かわしい姿となって発見されました」
「物騒な世の中だな」
「只今 犯人を捜索しておりますが、重要参考人の蛭魔くんに質問します」
「なんなりと」
「犯人の心当たりは?」
「皆目検討もツキマセン」
眉を寄せて少し困ったように彼は言った。
その実、体は銃から目を離さずに弾丸の充填に集中している。
この男、いかんともしがたい、
「アー、でも」
「でも?」
「1時間くらい前に、甘いものが嫌いそうな奴がキッチンの傍を歩いてるのを見かけたなぁ」
「・・・犯人の顔は?」
「それが暗がりで見えませんデシタ」
しれっと答える。
いい加減あたしも堪忍袋がはちきれそうになってきた。
ソファに座る彼の右真横に仁王立ちする。
「蛭魔くん」
「ハイ」
「何か あたしに言うことは?」
訊ねたら、ようやく彼はこちらを向いた。
じ、とあたしの顔をみてから、再びフイと銃に目線を戻して、言った。
「ゴ愁傷サマ」
この男、
自分でもよく分からないうちに、彼の襟元を掴まえて くちづけていた。
キッチンなんかに置いとかないで、さっさとシュークリームを食べてしまえば良かった。
そうしたら このくちづけが 彼にとっての処刑になるのに。
甘くもない、唇の味のキスは、むしろあたしを問い詰めた。
(この男 どうしてくれよう)
(この男とあたしは相容れないものがある)
(この男 どうしてくれよう)
(この男とあたしは相容れないものがある)
(この男は もう やめるべきなのでは?)
唇を離して 至近距離で胡乱な視線を送るあたしに、彼はふざけた笑みを投げた。
「アレ?まさか姉崎さん、俺を疑ってんじゃねぇだろうなぁ」
濡れ衣はよしてくれよ、と嘯いた唇を 再度 塞いだ。
(この男とあたしは相容れないものがある)
(この男は もう やめるべきなのでは?)
火の無いところに煙は立たない。
あなたがいなければ、この胸を焦がすことも無い のに。
***
シュークリーム一つでここまで思い詰めるのか。まぁ まもりちゃんだし(真理?)
でも、実は「シュークリーム殺人死体遺棄事件」は過去 何回も起こっている悲劇なのです。
蛭魔さんは初犯ではありません。
それでも買ってくるのがまもりちゃんで、それを端から捨てていくのが蛭魔さんで、そんな二人の恋愛がひるまもなのです。
(2005/05/24)