あたしが死んだって 世界は何も変わらない。
だけど、蛭魔君が死んでしまったら あたしの世界は終わってしまうわ。
「勝手に殺すな」
忌々しげに彼は言い捨てた。
悪魔の手元には人間の利器 ノートパソコンが鎮座している。
対して非力なる人間のあたしの手元にはハードカバー。
登場人物は世界のど真ん中で愛だ何だと叫んじゃってる。
ブームが終わってようやく図書館で借りられるようになったので、早速今日借りてきたばかりの一冊。
世間を騒がせただけあってそれなりに面白い。 かな。
・・・悪魔は一目表紙を見ただけでその柳眉を歪めてしまったけれど。
「あなたについては 殺そうにも殺せないと思うのですが、いかがでしょう 裁判官?」
「よくわかってんじゃねぇか。じゃあ くだらねぇこと抜かすんじゃねぇよ」
言いながら彼はさながら小槌を打つかのようにエンターキーを タン、 と押した。
押した途端に、画面一杯に髑髏マークが飛び散って画面が真っ黒になる。
いつ見ても怖い画像だわ。
人間の輝かしい未来の為に造られた利器が、こんな恐怖の機械に変身するんだから魔術って凄い。
「・・・ほんと、実は蛭魔君が悪魔の化身でも驚かないよ」
「あ?喧嘩売ってんのか」
「悪魔ならあたしより絶対長生きじゃない?」
「それだけの為に人を化け物にすんじゃねぇよ」
「幽霊はともかく、悪魔とかは結構嫌いじゃないんだからいいじゃない」
「いいことあるか。この糞女」
「いいことあるよ」
蛭魔君が生きている。
あたしが目を閉じる その最期のときまで 生きている。
いきているんだよ。
「くだらない」
吐き捨てるように彼は言う。
「人間は絶対死ぬし、俺も死ぬし、お前より先に死ぬこともあんだろ」
身も蓋も無いことも言う。
「大体お前、50代の自分が想像できても、30代の俺が想像できるか?」
救いようの無いことも平気で言う。
ちょっと肌に張りがなくなってきて、そろそろ白髪も生え始める蛭魔君なんて想像できない。
目尻に小皺が寄って縁側でくつろいでる自分なら想像できるのに・・・。
手の甲も しわしわなあたしの隣に、蛭魔君はいない。
ますます悲しくなってきて、途方に暮れてしまう。
「蛭魔君が先死んじゃったらあたし どうすればいいんだろう」
「どうもしようがねぇだろ」
「・・・もっともなこと言わないでくれる?」
「死んだ後のことなんざ知ったこっちゃねぇよ」
「ってゆーかはじめに あたしの世界が終わる って言ったよね?もうちょっと他に言うこと無いの」
「後追いしようが 泣き濡れようが、好きにしてくれ」
ぺろっと言う。
計算か何かが終わったみたいでパソコン画面がじわじわと明るくなっていく。
なんでもない顔してさっきの操作の続きを始める。
あたしが世界の終わりについて悩んでいるって言うのに、この気軽さはなんだろう。
まぁ、もともとは 悪事に勤しむ男の隣で我関せずと恋愛小説なんかを読んでいたのはあたしなのだけど。
互いに互いをきにしていない。
そして世界も 我関せずを決め込んでいる。
誰かが死んで、とても悲しくても、世界は何一つ変わらない。
愛だ何だって言ったって、結局最後は死んじゃうんだな と思うと なんだか空しいなぁ。
あたしが死んでも人は笑うし 泣くし 怒ってる。
世界は我関せずを決め込んでいる。
「つーかな、」
「え?」
ここでも我関せずを決め込んでいた男が突然話しかけてきた。
「つーかな例え 自分でも老けた面なんざ想像できなくても勝手に死ぬと決め付けられんのは気にくわねぇ」
「自分で言ったんじゃない!」
「うるせぇ黙れ」
「俺が生きているうちは女々しいことを言うな」
「女々しいって言うか、女の子なんですけど」
「関係無ぇよ」
「くだらねぇことを言うな」
くだらない? くだらないですって
あたしにとっては死活問題なのに。
文句を言ってやろうかと思ったけれど、パソコン操作を再開した彼は口を真一文字に結んでしまった。
連続して叩かれるキーの音が、閉廷を告げる小槌の音のようで。
もういいわ。
次の裁判で会いましょう。
判決は いつか下る。
女々しいことは その時言わせてもらうわ。
あたしが女の子でなくて、一番困るのは誰でもない 彼なんだから。
あたしの女の子を消すのは、その目が閉じるときにして。
未来の裁判官に 黙って敬礼。
***
よくわからないものを・・・。
難産でした。死にネタにはしたくなかったのでどうにかこういう形に。。
丸めて指差して「糞だ」と罵ってください・・・。
まもりちゃんが死んじゃったら、あたしが泣き濡れて暮らすよ。
(2005/07/10)