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従業員が遅刻をした。

うちには住み込みの従業員が一人と通いの従業員が一人、いる。
住み込みの従業員は遅刻のしようがないので、遅刻したのはもちろん通いの方の従業員だ。
いつもは朝も早よからひょっこり顔を出して「さもしい冷蔵庫だなぁ」とか失礼なこと言いながら飯を作ったりしているのに、
今日は日が昇って4時間しても、5時間しても奴は顔を出さなかった。
いい加減、腹が減ったんで 缶詰でも開けて飯にするか と住み込み従業員 神楽に聞いたら、
「メガネの味噌汁が飲みたい。飲まなきゃ若さを保てないヨ」とわけのわからないことを言って、怪力の従業員は暴れた。

仕方が無いのでメガネの従業員 新八の家まで迎えに行った。




しんぱちくーん あーそーぼ



ふざけて門前で叫んだら、恐怖の女王が現れた。あの台詞が召喚の呪文だなんて知らなかった。
だけどゲームと違って人生にはセーブ機能が無いので、元には戻れません。ハイ。


「あら、どこの躾のなってないクソガキかと思ったら銀さんじゃないの」
「・・・あー、お妙 おはよーさん」
「もうほとんどお昼よ。だらけた生活してるわね」



相変わらず取り付く島の無い応酬をする女だ。



一身上の都合により、コイツには少し嫌われている。

理由というのは まあ、『女の勘は鋭い』ってやつだ。
俺としては他人にばっかり気付かれなくとも、一人だけに気付いてもらえるだけで良いという控えめな意見だけれども。

アイツがもしも女なら、鋭い勘でもって気付いてもらえただろうか。
いや、結局あいつは何にも気付かないんだろう。
だったら なんだっていいさ。



「つーか こんな時間によく起きてたなお前」

「・・・新ちゃんがね、」



そこでお妙は言葉を切った。ちら、と俺の目を見る。台詞は続かない。
なんだか無性に気になって、俺はお妙の横をすり抜けて家の中へと上がった。お妙は文句を言わなかった。






ドスドスと突き進んで、この家で居間以外に唯一知っている部屋の前に立ち、ガラリと襖を引いた。
開いた襖の向こうには布団に蹲ったメガネの従業員がいた。



「おはよーさん、ダメガネ」
「・・・銀さん」
「いい夢見たかい」
「・・・」
「日はとっくに昇ってんぜ。いい加減起きろ」
「わっ ちょっとっ」



いつまで経っても奴が動こうとしないので、しょうがねぇな と奴の腕を掴んで引っ張りあげた。
なんとなく勢いでそのまま肩に担ぎ上げる。丁度良いのでこのまま万事屋まで運ぶことにしよう。
一歩 歩き出すと肩の荷物は慌てたように騒ぎ出した。
さすがに犬猫を持ち上げるのとはわけが違うので、少し暴れられただけで結構疲れる。


「オイ、ちったぁおとなしくしてろよ テメー」
「つーか何してんですかっ 降ろしてください!」


言いながらバシバシと背中を叩かれるのは痛くないんだが、肩の上で足も揺らすので腰がぐらぐらしてツライ。
腰は男の命よ?!ねェ!

男としての名誉も果たしていないうちに命を絶つことになっては困るので、一度新八を床に下ろすことにした。
下ろした途端に、軍隊宜しく匍匐前進で逃げようとするもんだから、慌てて袴を踏んで動きを封じた。



「わっ ぎゃっ、銀さん!袴が脱げる!」
「袴が脱げるくらいなんだ!銀さんなんて 男の命をへし折られるところだったのよ!」
「はぁっ?わっ、わけわかんないけど、僕の袴が脱げるのだって男のプライド真っ二つですよ!」
「あってないようなプライドなんざ、捨てちまえ!」
「勝手なこと言うなー!」



「ええい 往生際の悪い!」



あんまり新八が言うこと聞かずにギャーギャー言うもんで、
いい加減、面倒になって むんずと新八の袴の裾を掴んで がばぁっ と自分の方に手繰り寄せた。
その勢いで少し袴がずり落ちてしまった。



「わーっ ちょっともうアンタ サイテイだ なんなんですかこのクソヤロー!」
「袴が破けるよりマシだろーが!まだ動くか!」
「つーかアンタ僕のこと荷物か何かだと思ってませんか?!段ボール運ぶみたいに持ち上げたり引っ張ったりしないで下さい!」
「オメーがじたばたすっからだろ!銀さんそんなに若くないの!少年の精力についてけないの!」
「いっつもまだまだ少年だ って言ってるじゃんかー!」
「バッカヤロウ、そりゃ精神論だっつーの!」



大体ジャンプも無いのに少年の心が手に入るかァッ!

真理を叫びながら、新八の上に乗っかって身体を押さえる。
両手で新八の両手を床に縫い止めて、右脚で腹の上に乗り、仰向けた両足の間に身を置いて動きを封じた。
2人してやや汗をかきながらフゥハァ言っている。
朝っぱらから布団の上でくんずほぐれつするっていう設定は満更でもないが、肝心の内容が希望通りにいっていない。
そもそも俺としては、なんでこんな不毛な 追いかけっこにもなってない追いかけっこをしなきゃならないのか解らない。



「・・・よォ、新八。一体、どうしたん、だ よ」


ゼハゼハ言いながら、切れ切れに訊ねたら、新八はいまだ喋ることもままならないようでひたすら呼吸ばっかりしていた。
生きるのに一生懸命な生き物のようだ。なんとなく、胸に込み上げるものがある。
しかし感慨に浸ってばっかりもいられないので、新八の呼吸が整ってきたのを見計らって再び声を掛けてみる。


「おーい。新八やーい」
「・・・ちょっと、銀さん、頬を叩くの、やめ、て、くだ、さぃ」


気つけ代わりに右手を離して幼い頬をぺちぺちと叩くと、開いた左手で新八がそれを払った。
まだ苦しそうに息継ぎをしているものの、起き上がろうと動くので乗せていた足や手をどかしてやる。
のそり、と起き上がった新八の顔は不機嫌と言うよりは不具合そうに顰められていて、こっちを見ようとしない。




「おいおい、どうしちゃったの新ちゃん」
「・・・」
「銀さん一度の遅刻で怒り出すような小っちゃい男じゃないよ?」
「・・・」
「アレか、えーっとさりげなく2週間給料日過ぎてんのを怒ってんのか?」
「・・・」
「あっ、違う?そーだよな、慣れっこだもんな。じゃあ何だ、神楽が殴りかかったとかか」
「・・・」
「んだよ、コレも違ェの?・・・女かァ?」
「・・・」
「・・・あっ、そう、違うの?ヘェ、ほー、フーン、違うのね。・・・なら何だよ」
「・・・」



「もしかして、男の問題か?アレが短しょ「死っねェェェ!」



ドガッと顎を蹴り上げられて、「うとかいうなやみ?」と続けたかったのに、それは叶わなかった。



「痛ってェ!舌噛んだ!」
「そのまま死ね!アンタ頭ん中最終的には下ネタしかないのか!この天パ!!」
「ばっか 何言ってんだ、俺の脳内は序盤もゴール地点も甘味一点張りだっつーの!」
「腐って溶けちまえそんな脳みそ!」
「酷ッ!謝って下さい!銀さんの繊細な脳みそに謝って下さい!!」
「誰が!人がねぇ、一生懸命夜通し悩んでるっていうのに、アンタって男は・・・」
「だから、どうしたんだってさっきから聞いてんじゃねぇか!」
「人に言えないような悩みだから一人で悩んでたんでしょうが!」
「俺にも言えねぇってか!」
「言えません!」
「言え!」
「嫌です!」
「新ちゃん教えてっ!!」
「可愛く言ってもダメッたらダメ!」



最後にバシッと言い切って新八はキッと俺の目を睨み付けた。



なによ

なによ なになに なんなのよ
なんだよ こいつ どうしちゃったの
昨日まで隣にいたのにのに、一も二も無く離れるなんて
なんで逃げんの どうして俺から逃げるんだよ

なんかしたの? なんかしたか俺  全っ然心当たり無いんだけど。
キスどころか手も繋いでないし、抱きついても無い。
ついでに家事もしてなきゃ仕事だってしてねぇよ。
給料だってやってないよ。
してないだらけだよ だからダメなの?

してなくたって、昨日までは ぎんさんぎんさん とかつって近寄ってきたじゃん。


隣で笑っててくれたじゃん。



洪水のように思考が入り乱れて、二の句が継げない。
呆然と目の前の新八を見返していると、その顔が戸惑いの表情を作る。



「ぎんさん?」



あ、なまえをよんだ。

と、思ったら、新八は今度悔しそうな顔をした。
そのまま何かを耐えるように目を瞑って ウッー と唸る。
しんぱち? と声を掛けようとしたら、突然奴は大声を出した。




「あー!このダメ人間!下衆野郎!!」
「ヒッ!エッ、何?」
「アンタねぇっ、ずるいんだよ!畜生わかったよ言えばいいんだろ、言うよ、言ってやるよ!」
「し、新八くん・・・?え、言ってくれる、の、かな」
「言ってやるとも!ハイハイ、言いますよ!どうせ僕ぁね、」


荒々しく言いながら、新八は床に手を着いて頭を低くする。
はっけよい の形に似ていて、突っ込んで来る気なのかと咄嗟に身構える。
しかし新八は突っ込んでは来ずに、そのまま勢い良く立ち上がった。



「どうせ僕はアンタに弱みも持ってるし、勝ち目もないダ眼鏡なんだ」

立ち上がり様、新八は早口で何事か呟いたけれど、びびっていて気が散っていた俺にその声は届かなかった。



話をすると言ったのに、新八は立ち上がってすぐに散らばった布団を畳み出して、じっとしていなかった。



「え、あれ・・・新八くん 話は・・・」

「・・・銀さん」
「ハイッ」
「確かに僕はプライドなんてあんまり高かぁないですけどね、恥じらいってもんはそれなりにあるんですよ」
「は?」
「こんな、布団が散乱した部屋で、袴脱げかけのまま言うのは嫌なんです」
「はぁ・・・」
「と言うわけで、とりあえず万事屋にご飯作りに行って、それ食べてからもう一回相談しましょう」
「・・・え、はい・・・、・・・?」



え、何で先にご飯作りに行くの?
相談ってここじゃダメなの?
・・・恥じらい??


俺が頭の中を疑問符だらけにしている間に、新八はさっさか片付けを終えて袴を履き直した。
スラッ と襖を開けて「行きますよ」なんて声を掛けてきて、俺は「まぁ なんて凛々しい」とかって感嘆した。
新八の後に付いて廊下を歩く。


ふと見ると玄関口の柱にお妙が寄り掛かって立っていた。



「姉上、疲れてるのに煩くしてすみません」
「良いのよ。8割方煩かったのはこっちのマダオだから」
「オイ、お妙お前「煩い」


文句を言いかけたところをピシャリと遮られた。酷い この姉弟。


「女の勘は鋭いのよ、銀さん」
「・・・存じてます」
「何かあったら一発で解るんですからね、一発で」
「?はァ」
「姉上ッ」
「・・・、いってらっしゃい 新ちゃん」


最後のお妙の念押しの意味をいまいち理解し切れていないまま、何やら焦ったような声で新八が俺の背を押して外に出る。
お妙は、少し呆れたみたいな顔をして、新八を送り出した。テレパシー出してんのか、この姉弟。キモッ。









その後、俺の後ろには乗りたくないと言う新八に従って、俺はやや打ちひしがれながら、2人で歩いて万事屋に行き、遅い朝食と昼食を食った。

そのまた更に後に、ようやっと告げられた『相談』は俺を、天国に昇らせつつ、地獄の門前を紹介してもくれた。








何故なら 鋭い女の勘が、明日の朝日に俺を殺しに来るからである。













***
どんだけゆるい袴はいとんねん っつー話・・・。
朝なのでキチンと締めていなかったってことで・・・。(もう昼近いって言ってんじゃん!

新八告白編、第二段(ジャジャン)。ちょっと解りづらかったかも・・・。そして長い・・・。
今回結構下ネタ的発言が多いので、ヤバイかなー・・・と ちょっとびびってます。
けど銀魂の作品イメージならオッケーか?と思ってそのままいっちゃいました。
気付かない人はそのままで、解らない人は調べないようにして下さい。

(2005/09/16)