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ダチが死んだ。
川で溺れておっ死んだ。
12の頃だ。

それから数年、周りの奴らがバッタバッタと死んでいった。
事故だったり、病気だったり、天災だったり、死因はさまざま。
…殺し殺され たり。


だもんで、今目の前にいる奴が、あくび一つの間に死んでしまう現実をちっとも不思議に思わない。
むしろ、15年も生きた奴を見れば「よくここまで生きたなぁ」なんて感心してしまう。




今、俺の隣に座っている志村新八も、その例外ではない。

多少は剣を使うが、こんな不器用な子供なんかがよく十数年も生きてこれたもんだ。
俺は常々感動してるっていうのに、当の新八ときたら素知らぬ顔でソファに凭れかかって茶なんぞ啜ってやがる。
呑気なもんだ。
無防備に上下しているまだ小さい喉仏を、俺なら一瞬で切り裂けるだろう。


恐ろしいのはこんな時だ。
俺のこの両手は、本当に簡単に、この細い喉なんか切ってしまう。
片手でも楽勝だ。

人間、
目の前に紙と筆があれば、とりあえず試し書きをしてしまう。
野原にいれば、いたずらに草花を引きちぎってしまう。
めくれたささくれは剥いてしまう。

他意の無いそれらは、もはや人間に仕組まれた業だと言えるんじゃないか。
軽やかに、容易に。
ふとした弾みに。

俺の両手が新八の喉を切り裂くことも、同じこと。
ふとした弾みに、ゴロリ と。


俺は本当に恐ろしい。
恐ろしいのが恐ろしい。
慰めや救いがないから。


怖い。恐ろしい。助けてくれ。

こういうとき、俺を助けてくれるのは新八なのに。
その新八を俺は弾みで殺してしまうかもしれない。

恐ろしい。助けてくれ。







心の中でどんなことを言っても、誰にも伝わらないのは便利であり不便だ。
新八は助けてくれない。
呑気に茶なんか啜ってやがる。





小さく動く喉仏。

「熱ッ」と言って、舌を出す。
ふぅふぅと、湯飲みに息を吹きかける。
伏せた 睫毛。

一瞬で消え去りそうな、頼りなさ。
こんな儚いものが、15年も生きてきたのか。



それなら、誤魔化し誤魔化しやってけば、あと数年は生きるんじゃないか。
なんだかんだで十数年、上手くすれば数十年。

大丈夫、上手くやっていけば生きていける。
亀だって万年生きるんだから、人間様が80年生きるのなんて訳無い。

大丈夫、上手くやっていけば生きていける。だいじょうぶ。

だい じょう ぶ。



ふ、 と新八を見やる。
動く喉仏を、唇の吐息を、伏せた睫毛を、恐ろしさより、愛おしさで見詰めることができた。
ほっとする。

ほっとした瞬間に、利き腕が微かに揺れた。理由は知れない。

知りたくはない。








12の頃にダチが死んだ。

それから数年、周りの奴らがバッタッバッタと死んでいった。
若くして、命を落とした。

時代だなんて言うつもりは無い。死ぬ奴は死ぬ。




なんとなく、利き腕をもう片方の腕で押さえる。 少し寒い。
けれど、隣の薄い肩に寄り掛かったら、粉々に崩れ落ちてしまいそうなので、ぐっと耐えた。

大丈夫、大丈夫、上手くやれば


だいじょうぶ。










新八は助けてくれない。


この 恐ろしさよ。








***
新年早々、私はなんって暗い話を書いているんだろう・・・。
本誌があれなんで、真面目に物思いに耽る銀さんが書きたかっただけなのにな・・・撃沈。
うちの銀さんは、新八を手にかける不安はあっても、新八を守るという思考回路はありません。
「俺が守る」とか言った途端に死にそうで怖いからです。ばかだなぁ。

(2006/01/10)